林の中を影が疾駆する。
高速で視界を前から後ろに流れていく景色の中、複数の気配がぴったりと一定の距離でジェロムを追跡していた。
―振られて女は強くなる―
「くそっ!早くウィード達と合流しなくちゃならないってのに!!」
無言の追跡者達を幾ら挑発してみても鼻息すら返してこない。
背筋に薄ら寒いものが走るのを感じながら、とにかく開けた場所に出ようとジェロムは必死に駆けた。
不意に背後から牙が迫る気配を捉えるが、普段彼の背中を守るリディアは今いない。
気づくのが遅れた為に回避も間に合わないと一撃を覚悟するが、牙は一向に体に触れてこなかった。
それ所か、気が付けば背後からのあの気配が一箇所から動かなくなっていた。
「ジェロム!背中は私が守るから駆け抜けて!!」
鋭い声はリディアとは違う女の声だが、何故か一瞬懐かしさがこみ上げる。
「すまん!助かった!!」
駆け出す瞬間視界に白い被毛が見えて、覚えのある色だと思った瞬間、一匹の女が脳裏を過ぎった。
あっという間に白い毛の助っ人は視界の奥に置き去りにされ、代わりにジェロムの胸中に飛来する予感は徐々にはっきりとした面影に変わっていく。
「お前…なのか?」
「あ、私の事覚えててくれたんだ。うんそう、久しぶりねジェロム」
追っ手を振り切ったのだろう助っ人のメス犬が、ジェロムの問いに嬉しそうに答えた。
少しの間見ない内に精悍な面立ちになっただが、微笑む顔は全く変わってない。
「お前飼い犬隊だった筈だろう。何故今…」
「正式に奥羽軍入りしたの」
「なに?!」
事も無げに言い放つと対照的に、ジェロムは声を張った。
「私、ジェロムに守って貰ってばっかりだっだ。飼い犬だから戦えないから、守って貰うのが当然だと思ってた…。」
だけどねとつけたし、は言葉を続ける。
「何時しかジェロムを守りたいと思う様に…、一緒に戦える様になりたいって思う様になったの」
今にして思えば、ジェロムは部下を死なせた自責、その贖罪に無意識の内に庇護する存在を求めて頂けなのかもしれない。
そしてその目に留まったのが、たまたま私だったというだけなのかもしれない。
それでも良かった。ジェロムが私を守ってくれていた事には変わりないのだから。
「感謝してるわ、貴方のお陰で戦う意味を知って、その力を持てたんだから」
ジェロムの言い様の無い瞳がに注がれる。
きっと彼も、私を変えた原因が何か何となく分かっている筈だ。
確かにそれは引き金だったけど、それよりもっと大きな想いはやっぱりジェロムと一緒に戦いたかったから。
ジェロムは私の言わんとする事を分かってくれるだろうから、最大級の笑顔で言う。
「改めて、飼い犬隊から護衛隊に配属されましたです。共に戦う同志として、宜しくジェロム!」
そしてさようなら…ジェロムに恋してた弱いだけの私