「おお殿か良く来てくれたな。北見はその後どうだ?」

と呼ばれた狼犬は、銀の盟友白狼が治めていた道北からの使者で、白狼亡き後の道北と奥羽間の伝令として行き来している戦士である。



―振られて女は変わるもの―



ひょんな勘違いから出会った奥羽のと道北のは、犬種も気性も全く違うのに直ぐに打ち解け、奥羽のは妹分として可愛がられた。

そのがロシア軍を退けた後、負傷兵として奥羽にとどまり、牙城跡の林の中独りでぽろぽろと涙を零していた。

「ちょっと!何で泣いてんのよ誰かになんかされたの?!お姉さんに言ってみな?!」

涙に暮れる後姿をみたは、まるで自分が泣かせてしまった様に慌てて駆け寄り、零れる涙を舌で受け止める。

根気強く慰めてくれる姉に、落ち着きを取り戻したはぽつぽつ語りだした。



ウィードの呼び掛けで北の大戦に加わったのだが、ジェロムの傍に見慣れないメスのシェパードが居た事。

法弦と戦っていた時は何処にいても傍に居てくれたのに、そのメスの傍から離れず目もくれなかった事。

あまつさえ北の大戦が終結を見た折、二人で公認の新婚旅行へ旅立って行ってしまった事。


「ジェロムったら…ウィードの片腕のシェパードだったわよね?あんたアイツと付き合ってたの?」

話を聞いていた姉はこりゃ意外だったわと目を剥き、妹は首が取れるんじゃないかと言う勢いで左右に振って否定する。

「そ!そんな事!!…そりゃ・・・付き合ってた訳でもはっきり告白された訳でもないけど・・・」

大将の右腕である男に「守ってやるから付いて来い」と言われたのだ、期待とか誤解しない方が無理な相談だと

「うーん…ねぇ、その女って軍事犬だったよね?ならある意味仕方ないわ」

自分の悲しみをわかってくれると思っていた姉から思わぬ言葉を聞き、小さなは顔を跳ね上げる。

静かに穏やかに、道北のは子に言い聞かせるよう語りかける。



「あんたは戦場でジェロムを守れる?良くて彼の身代わりになって・・・そして悲しませるわ」


「戦士の恋人になって同じ戦場を駆けるなら、最低限自分を守れる力が無きゃダメなの」


「守ってやるなんて言葉に甘えちゃダメ。戦い慣れしてない飼い犬だなんて言い訳しないで、彼の危機にはあんたが守る位の気概を持たなきゃ。それで敵にあんたが言い放つの」


「「私のジェロムに手を出すんじゃないわよ!!」」

二人の咆哮が重なって森に響き、動物達が逃げ惑うのを感じながらはぎこちなくではあるが、笑った。

「戦い方なら私が教えてあげる。ジェロムと女シェパードの度胆ぬいてやんなさい!」

「ありがとう姉さん…。私甘えてたわ、姉さんの言う通りね。私頑張るから!」

涙をぬぐって駆け出すの後姿を見ながら、かつて義父である白狼を想っていたのに、狼族の生き残りに嫁がされた事を思い出す。

「寄り添うのが叶わぬ身なら、せめて共に戦いたい…か…。私は……そう思う様になるのに随分かかったってのに……」


「…あんたは強いわね、…。」

かつての自分もあの娘の様な強さを持っていたら…と心の中に過ぎった弱音を振り払う様に首を振り、雲ひとつ無い青空を見上げる。

「ったく何処ほっつき歩いてんのかしら氷魔の奴。帰ってきたら殴り倒してやるんだから」