「うらぁ――!!!!」

「待てクソ猪――!!」

「気合入れて走れお前ら!!」

「絶対ぇ逃がすかあああああああ!!!」




甲府の山中で4匹の犬が猪を追い回しながら口々に叫んでいる。


「いよっしゃ!一番牙はもらったぜ!!」

猪の前に回りこんだ晴虎が跳躍して一撃を浴びせようとした瞬間、猪はやおら方向を変えて晴虎をかわす。

着地した晴虎が追いついた信虎と影虎と一緒に追跡を開始しようとした眼前で、猪は横倒しに転がった。

「へっへー悪ぃな兄貴。一番牙は俺のもんだったぜ」

「だあああちっくしょー!またに取られたかー!!」

横からの一撃で既に気を失った猪の上で得意げに鼻を鳴らす一匹のメス甲斐犬。

この犬は黒虎の4番目の子にあたり、男勝りと言うかむしろそこらの男よりも逞しい妹の素行にさしもの長兄・影虎も閉口する程だった。

妹の性格は育った環境と家族が悪かった、としか言えないかも知れない。

日に日に兄としての力を脅かされる3人は、此処最近をどうしたらもっと女らしくなるのかと議論を重ねていた。

だが悲しいかな奥羽は基本的に女日照りで乙女心の何たるかを理解している者は少ないし、影・信・晴も女らしい女などとは無縁で議論は常に進展する筈もなかった。




「なぁお前もうちょっとしとやかにできねぇのか?」

「はぁあああ?何寝ぼけた事言ってんだよ兄貴。メスに生まれたとはいえ甲斐の子、しとやかになんてしてられっか」

意を決して苦言を呈する影虎の目の前で、は躊躇いも無く尻を突き上げ前足を伸ばして欠伸をする。

「いや、お前好きな男とかいねぇのかよ。そんな相手の前でもそんな事じゃ、相手ドン引きだろ」

「・・・・・・・・・じゃあ聞くけどよ、兄貴は俺を見てて引くか?」

いきなり問われて影虎は反射的に首を横に振る。

「は?いや、俺は別に」

「じゃあ問題ねぇ」


そういってそっぽ向くと、とっととは姿を消した


の後姿を見送りながら言葉を反芻して、思わず胸を高鳴らせてしまった影虎は自己嫌悪に頭を抱える日々を送る事になった

そんな影虎を他所に、当のの素行がほんの少しだけ改善されたのに兄弟達は気づく事が無かった