「…痛っ」
「怪我をしたのか」
ガラスの破片で指を切ったのと、ドリルホーンの声が私に向けられたのは、ほぼ同時だった
―惑わす指―
私は今、ドリルホーンの自室で傷の消毒をして貰っている
小さなガラス片だったので浅く斬っただけと言う予想に反し、傷口が床に赤い雫を落とす程血を吐き出した所為だ
因みに、何でトランスフォーマーである彼の部屋に人間用の救急箱があるかと言う疑問は、ずっと昔にゴミ箱へスラムダンクしたと思う
処置を受けながらぼんやりとしていた私に、繊細な力加減で手当てをしてくれるドリルホーンが声を向ける
「有機生命体の表皮は脆弱だ。基地内の物に触れる時は気をつけろと言い含めてあった筈だが」
「私に何か有ったら、貴方達が大帝に怒られるから大人しくしてて欲しいんでしょ?」
悪びれない言葉に、ドリルホーンの赤いオプティックセンサーがじろり、と私を見下ろす
「デスザラス大帝は関係ない」
「貴方が私に構うのは、私がソロンと一緒にデスザラス大帝に連れてこられた人間だから。でしょ?」
排気混じりに否定するドリルホーン、即座に切り捨てる私、意見が合ったり折り合いが付いた験しなんて、記憶に無い
それでも私はこの金属生命体の男を、何時からなんて分からない位前から好きだった
私はもう何も知らない子供じゃないの
私に触れるこの手は 恋じゃないの? 愛じゃないの?
そうじゃないなら期待なんてさせないで その残酷な手を引いて 早く諦めさせてよ
「もう大丈夫よ、後は絆創膏でも貼っとくから」
「なら部屋まで送ろう。目の届かない所で怪我をされては堪らん」
ドリルホーンの大きな掌から腕を引いて立ち上がろうとする私の肩を、金属の手が縋る様に押し留める
お願いだからもうやめて
貴方が私に触れる度に、溢れそうになる想いをどれだけの理性で押さえつけてると思ってるの
あなたに想われてるかも知れないなんて自惚れさせないで…!
「大丈夫だったら!私は子供じゃないの!」
「………」
今度こそドリルホーンの手から逃れた私は、逃げる様に扉へ駆け出す
「…待て、部屋まで送る」
部屋から飛び出す直前で、再び肩に触れた貴方の指が、妙に熱く感じた
早くなる鼓動を聞かれたくなくて、視界が歪む位たまった涙を見られたくて、ずっと下を向いていた私
部屋に着くまでずっと私の肩を抱いていたドリルホーンのオプティックセンサーが何処を見ていたかなんて知りたくも無い
矢印はお互いを向いてる筈なのに、方向がかち合わない二人
書き掛けのブレイン兄弟差し置いて何故か先に完成しちゃった…