「はいみんなー、今日のブレンドオイルは特別仕様よー」

2月14日。ディエゴガルシア島はネストラボにのん気な声が響いた




―賢者の贈り物まであと一歩―




「何だよー、何時もとかわんねーオイルじゃねーか」
「んっふっふーぅ。文句言う前に、満を持してボトルキャップを外してみるが良いわよー」

テーブル代わりのコンテナに並べられたオイル缶を前にブー垂れるツインズに向けて、が「甘い甘い」と指を左右に振る
それに対して「特別なんて口先だけだろー」と喚きながら、それぞれが缶のフタを開封すると室内に甘い香りが広がった

「何かしら、初めて認識する匂いだわ」

バイク3姉妹とラチェットが缶に嗅覚センサーを近づけて分析を始めている横で、スキッズは既にオイルをグビグビ飲んでいる

「ふふ、良い匂いでしょアーシー。それが人間の大好きなチョコレートって食べ物の香りよ」

今日はバレンタインデーだからねと笑うに、全員が一斉にバレンタインを検索し、首を傾げた




「あれ?ところでハイドは?」

そう言えばオプティマスは居るのに、それに次ぐ黒い巨体が見当たらなくて、はラボの中に視線を巡らせる

「ん?師匠ならレノックスの所に行ってるぞ」
「何か頼まれ事してて、今日はその報告の義務を果たさなくてはいけないらしい」

行儀良くストローと言う名の鋼管でオイルを飲んでいたサイドスワイプとジョルトが交互に答えた

「へぇ?じゃハイドのは後回しね。今日中に帰ってくると良いんだけど」

余り深刻ではなさそうに頭をかいたは、「ホワイトデーは3倍返しで宜しく!」と面々に得意げに言い放ったが、再び首を傾げられたのは言う迄も無い








「おかえり。ハッピーバレンタイン、ハイド」

夜の11時を回った頃、ようやくラボに姿を現したアイアンハイドにバレンタイン仕様オイルを差し出すは嬉しそうに笑うが、少し眠そうだ
シフトを終えたからと言って自室に戻る人間ではないと知っているが、態々自分を待っていてくれた事が嬉しくてアイアンハイドはの頭を撫でてオイルを受け取る

「良い匂いでしょ?前にボッツに嗅覚有るのか聞いといて正解だったわ」
「…匂い以外は普通か」

スンスンと鼻を鳴らした後、一口口をつけて至極冷静に呟くアイアンハイドには肩を竦める

「オイル性能を落とさずに添加できるのは、今の所香料が限界なの。要望有れば開発部に相談してみるけど?」
「これで十分だ」

そう呟いて、アイアンハイドはオイルをぐいっとあおる

「うおう一気飲み!?今日だけの特別フレーバーなんだからまずは匂いを堪能しなさ」

遮る様にオイルの缶を叩き置き、経口から零れたオイルを拭って黙って胸部を開くと、スパークの青い光に照らされる一輪の赤いバラが現れた
茎を握り潰してしまわぬ様に、そぉっと鋼鉄の指がバラを摘み、静かにの胸の前に差し出す




「俺の…想いだ」




つっかえた物を吐き出す様に、搾り出す様に、囁く様に、アイアンハイドの声が音声モジュールから紡がれた

が、情熱の花を差し出された当のは、ロマンティックとは遠くかけ離れた…半ば呆然とした表情で口が開いている


「え、何?何でハイドが?逆じゃない?」


自分は言葉が足りないのは自覚しているが、日本風に言うなら清水の舞台から飛び降りるつもりでバラを渡すなどと小っ恥ずかしい真似をしてるのに、この言葉
そもそも堪忍袋の尾があまり丈夫でないアイアンハイドは、若干の苛立ちを覚えながら言葉を紡ぐ

「今日…バレンタインとやらは男が女にバラや菓子を渡す日だと、レノックスに教わった…」
「は?!嘘!こっちってそうなの?!じゃ、もしかして今日矢鱈みんながチョコくれたの…って…」


こんな日付も変わる寸前に漸く会えた程度だ
自分がプレゼント一番乗りだとは思っていなかったが、矢張り他の連中に先を越されていたと言うのは悔しさが込み上げる


「何だ、要らんのか」

―俺以外からもこの花を貰ったから…俺からの花なぞ必要ないのか―

発声器から漏れかかった音声を飲み込み、受け取られなかった花を引き戻そうとした瞬間、アイアンハイドに比べて小さな手がそれを引き止めた


「…お互いおんなじ様な事考えてたのね」

少しだけ困った様に、しかし楽しげに笑いながらはツナギのチャックを下ろして胸ポケットから一つのギアを取り出す
人間の手に収まるそれは、何の変哲も無い歯車
だがの口から出た一言が、アイアンハイドにとっての歯車の価値をエベレストの頂よりも高く跳ね上げた


「私が作ったの。全宇宙に一つしかない超レア物よ」


そう豪語するはアイアンハイドの手からバラを抜き取り、代わりに小さな歯車を置く

「私は戦場へ着いていく事は出来ないわ…だからこの歯車を、私の代わりに貴方と共に―…」

其処まで言って、何故か言い淀んだは一度首を振り、立てた人差し指を口元に当てて悪戯っぽく笑む




「いや…もうむしろ………エンゲージリングって事で」




エンゲージリングとは何か

アイアンハイドがWWWからその単語の意味を得た瞬間、彼のヒューズが見事に飛んだ








オマケ(後日)

「因みにあのバラどっから盗って来たの?」

「馬鹿を言うな、任務の報酬として得た物だ。やましい事はしてない」

「レノックス少佐に頼まれてたって奴?任務内容聞いて良い?」

「…………極秘だ」





「お、何だ少佐その写真。愛しの奥方と姫君か?」

「いや、クマのきぐるみ着た姫君と巨大な黒クマ」









ハイドはアナベルちゃんの成長記録に貼る為にクマのきぐるみ2ショットしてきました(笑)