当直の筈のクリスマスイブがオフになった…。何だろう、これは何かの天変地異の前触れか何か?
だって軍入りしてまだ3年も経ってないような新兵ですよ?それが当直の予定を変えられてまともな休み?
絶対これ何か裏があるでしょ!大人しく休んだら後で「サボりやがったな」とかイチャモンつけられるんでしょう!!
まあ何でも良い。折角のオフなんだから帰る!!絶対帰る!!って言うか、この空間から出てやる!!!



―主よ、人の望みの喜びよ―



「うあー…街の中が何て眩しいんだろう……」

声を掛けてくるサイドスワイプをガン無視の上で脱兎の如く基地を後にし、着替えもそこそこに街へ繰り出せばどこもかしこもクリスマス一色。
そして幸せそうなカップルや家族連れ一色で、単身で歩いている自分は浮いてしまっているのが痛い程良く分かる。
家に帰れば私にだって家族がー!と言いたい所だが、両親は愛娘をほっぽって仲良くエーゲ海を臨む国へご旅行中。
空しさを感じつつケーキだけでも買って帰ろうかと思った矢先、携帯がメール着信を訴えた。
緊急招集だろうかと本文を開くと、其処には短く「前を見て」と書いてあるだけだった。
差出人のアドレスにも見覚えがない。はぁ?と訝しげな表情も露に画面から目を上げ、ずずいと視線を走らせる。



「はぁ?!」


今度こそ声が出た。
視線の先には忘れる事も出来ないあの車が。
黄色い体に黒のストライプを入れた、闇夜でも自己主張甚だしいあのカマロがこちらに向かってパッシングしている。
一瞬思考と体がフリーズしてしまったが、次の瞬間には弾かれた様に地を蹴り、カマロの車内に滑り込んでいた。


「ちょっ…!バンブルビーなんでこんな所に居るの!!いや居ても良いんだけどせめてホログラム出しー」

『重要な信号をキャッチ。スクランブル要請。直ちに現場へ急行します』

私の声は緊迫した女性の言葉に遮られ、前触れ無くアクセルを吹かし始めたカマロは、私の絶叫とタイヤ痕を地面に残して走り出した。



急発進の衝撃でグラグラする頭を振って話を聞いていると、私の携帯の電波をキャッチして慌てて飛んできたらしい。
ホームパーティの真っ最中だっただろうに…サム、ゴメン。と心の中で謝っておく。
謝りはするが、大親友との一時を蹴ってまで駆け付けてくれたバンブルビーには正直礼を言いたい。
女がクリスマスを一人で過ごすなどと空しいにも程があるし、何より一番一緒に過ごしたかった相手が図らずも傍に居るのだ。嬉しくない筈がなかった。


『その髪どうしたの?』

思考に埋もれきっていた意識を、バンブルビーのステレオ越しの声で戻される。
そういえば士官学校に入る前は肩より少し下あたりまであった髪の毛が、今は首にすらかからない長さだ。バンブルビーが驚くのも無理ない。

「似合わない?」

『かわいい』

ぽそりとステレオから聞こえた音声に、思わずコンソールをぺチンと叩く。
何しやがるんだ!と野太いオッサンの声が聞こえるが無視してコートを被って座席シートの上で丸くなってやる。
間違ってもバンブルビーに顔が赤くなってるなんて見られたくなかった。



文句を言うのも諦めたバンブルビーは、やがて小高い丘の上で停車した。
街並みが一望できる場所でありながら、人の気配がない。
私がカマロから降りると、その背後で金属が組み変わり、折り畳まれ、別の形を成していく音が聞こえる。
振り向けば眼前には黄色い巨人。懐かしいロボットモードのバンブルビー。
彼はオプティマスがする様に、膝をついて私と視線を合わせる。



『寂しかった』

「私もよ…。会いたかった、今日逢えて凄く嬉しい」

傷の入ったボディも、不自由な声も、硬く頑丈な指も、きょときょと動く青い目も、全部が懐かしくて、愛しい。
バンブルビーの顔を抱き締め、どちらからとも無く久々のキスをする。



…なんか何時もよりキスが長い気が…



私が長いキスを訝しんだ途端、バンブルビーの腕が私の背中で交差して所謂抱擁と言う状態になった。
予想外の拘束に腕を突っ張って抵抗しようとしたが、巨大な腕にどこか縋る様な儚さを感じて、止めた。
代わりに丸いヘッドパーツをそっと撫でてやると、触覚の様なパーツが猫の尻尾の様にぴこぴこと震える。
それを視界の端に認めては思った。ああ、本当に寂しかったんだ…と。



『今夜は一緒に居て。眠らないで話をしよう』

言葉に出さず、抱き締めて互いの距離を無くす事で応える

『今夜は寝かさないから覚悟しろよ』

もちろんよ、私だってそのつもり
積もる話だってある
なんだったら交わすのは言葉じゃなくて体でも良い
あなたの存在を全身で感じていたい
もう泣かなくて良いように
もう一度、互いの存在を確かめる様に、逢えなかった時間を埋める様に、愛おしむ様に、唇が重なった

鋼鉄の唇はあの日から変わらず、冷たくて、優しい






オマケ

お前…声かけても全然振り向いてくれないと思ってたら…」

一際太い樹木の影から様子を伺っていたサイドスワイプは放心した声を漏らす

実は人間の行事に合わせて今夜告白しようと基地からずっとを追っていた彼は、目の前の情景にショックを隠せない

もう一度覗き見て、隠れ、ばれない様にため息を吐いた後…三本指の拳を握る

「バンブルビーとか言うあの野郎…今はと幸せにしてろ。何時かは俺が振り向かせてみせるからな…!」

そう小声で吐き捨てその場を後にした彼は、基地への路を「チックショー!」とばかりにクラクション鳴らしまくりながらひた走ったという






2009年 クリスマスシリーズ第三弾