その黄色の長方形の紙…短冊には一言、「新しい狙撃用ライフル」と書かれているだけだった。
―三日月と下弦の月―
人間の文化を良く知る為にと、クリスマスパーティを発案したオプティマスが控えめに短冊とを交互に見る。
はサイドスワイプと同等の大きさのモミの木に、各々の願い事を書いた短冊をせっせと飾り付けていた。
その場に一人でも人間がいたのならオートボッツ達の勘違いを正してやれたかもしれないが、残念ながら彼等が間違いに気づく機会は無さそうだ。
「…その、君は書かないのか?バンブルビーの様に…」
「書く必要が無いから書いていません」
せっせと飾りつけの手を止めず、何の抑揚のない声で答えられさしもの司令官も一瞬言葉を詰まらせた。
「何故…そんな事を言うんだ」
「私は将軍が帰る事を『望んでいる』訳ではなく、『待っている』からです」
ようやく飾り付けに気が済んだのか、紙のリングで作られた鎖を手に持ちながらはオプティマスを見る。
「将軍は非常に失礼な方なので人を待たす事を何とも思わない方ですが、どんなに遅れても必ず現れる方ですから、私は将軍を待っているんです。」
「そうか…。ツリーのデコレートは任せたぞ」
当たり前の様な物言いでは有ったが、オプティマスは何処かの声が翳っていた様に感じそれ以上の応答を打ち切ってその場を後にする。
そんな司令官の背中を暫し見送り、何事も無かった様に飾り付けに戻るの手元は…確かに震えていた。
オートボッツに宛がわれたラボの中、コンソールに据え付けられたモニターには幾つか図面が表示され、慌しく線が引かれたり消されてを繰り返していた。
やや高い音を立てて開く扉をくぐり、オプティマスはコンピューターに向かって作業しているラチェットに歩み寄る。
「ああどうしたオプティマス。プレゼントの追加注文かね?」
「ラチェット、そのプレゼントなのだが…」
何時もの堂々とした司令官らしからぬ声色に、変態と名高い軍医が怪訝そうに振り返った。
そしてクリスマスの当日、オートボッツのみで開催されたパーティはささやかながらも皆笑顔だった。
ダウンロードしたクリスマスキャロルを歌い、クラッカーを鳴らし、ニトロ燃料の入ったグラスを打ち合わせ、サンタに扮したオプティマスがプレゼントを配る。
各々へのプレゼントは事前に実施した「何が欲しいかアンケート」に沿った贈り物なので、箱を開けるなりあちら此方から歓声が上がり始める。
プレゼントを貰う順番が待ち切れなくなったスキッズとバンブルビーがジョルトを押し退ける、等と言う場面も発生したが全体的には和やかな雰囲気でパーティーは進んでいった。
最後に順番の回ってきたの目の前でオプティマスがすいと体を横にずらし、その影からサンタ帽を被ったラチェットが現れる。
「、君へのクリスマスプレゼントだ」
ラチェットが、彼の腕にすら一抱えは有る綺麗にラッピングされた箱を差し出す。
「なんでしょうか。軍医からの贈り物となると、中身はディセプティコンズの内部機構標だと予想されますが」
「お前さん、私をなんだと思っているのかね」
「ソフトな変態」
間髪入れない切り返しに「間違っちゃねー!」と涌く男性陣の笑い声を聞きながらはリボンを解き、箱を開ける。
中から出てきた物に、ある者は息を呑み、ある者は顔を逸らし、またある者…バンブルビーは至極不満そうな電子ノイズを挙げた。
の手に取り上げられ、箱の中から現れたそれは、美しい三日月の形をしたシールドの様なシルエット。
ジャズのクレセント。いや、それそっくりに象られたライフルだった。
「名はラストクオーター。発案はオプティマス、設計と調整等はアイアンハイド、生成は私だ」
グリップを掴むタイプではなく腕に装着するタイプであるそれは、ともすればまるでジャズのクレセントそのままで。
早速右腕に装着してみれば、昔からの愛用品だとでも言う様な馴染み具合に、流石のも感嘆の声を上げた。
「お心遣い感謝します。これを手足の様に扱えるようになった頃、将軍が帰ってきた時の顔が見物ですね」
きっと真似しやがってと足を踏み鳴らして悔しがりますよ、と珍しくジョークを飛ばすに「そうさせちゃえー!」とか「楽しみだな」などと笑い声が響いた。
その夜…日の出も近い頃合。
人間達は宴に疲れて眠り果て、トランスフォーマー達もスリープモードに移行しかかっていた頃、ラチェットの聴覚センサーが小さな声を捕らえる。
足元に屍のように転がる同胞達を踏んでしまわないよう気をつけながら音の元を探し、海を臨むエアポートでそれを見つけた。
静かな波音と闇に紛れ、今日贈られたばかりのクレセントを掻き抱いて断続的な音声を上げる。
断末魔とも聞えるそれは、人間で言うならば「嗚咽」とか「慟哭」に当たるものだった。
の泣き声を聞いてラチェットは知る。良かれと思った贈り物は完全に裏目に出てしまっていた事を。
…私がの涙の引き金を引いてしまった…のか…
彼女の心の内を思いやる事を忘れていた自分に、愕然とした。
どんなに気丈に振舞っていても、感情が顔に表れ難いと言っても、彼女の心はジャズの死に今尚誰よりも傷ついて、泣き叫んでいる。
どうして忘れていたのか。気丈過ぎるに安心していたとでも言うのだろうか。愚か過ぎる己に、激しくスパークが乱れた。
彼女のブレインサーキットには今どんな演算が行われていて、どんな映像が流れているのだろうか。
それを止めてやればお前は泣き止んでくれるのか?
ラチェットはの回線にアクセスしようと試みるが、彼女は自分とクレセント以外の物を全て拒絶する様に接続を遮断している。
歯痒くて、無意識に拳をぎゅうと握り締める。
彼女を本当に若い頃から見守ってきた身としては、直ぐにでも抱きしめて泣き止むまで傍に居てやりたかった。
だがそれはを託したジャズがすべき事であり、ジャズだけがのスパークの嘆きを癒せるのだと、聴覚回路を切ってその場を後にする。
ラチェットは自室の一歩手前で、思い出した様に呟いた。
「ああ…あれは、月が泣いているんだ…」
地上の月と海中の月が共鳴しあう様に…悲しい月光は雫となって二人の頬を濡らしたのだろう。
ラチェットは”娘”の涙が、いつか嬉し涙に変わる事をただ祈っていた。
月が遠くで泣いている 暗闇の中 泣いている
干乾びていく手を伸ばし 私を抱いてと 千切れながら
2009年 クリスマスシリーズ第二弾