「よお大将、見てないか?」
通路の奥の方からエプスが大股で、だが急いでない歩調で軽く上げた手を振りながら歩いてくる。
壁を背にして右からレスキュー仕様ハマー、トレーラートラック、ピックアップトラックがギュウギュウに詰めて並んだ状態でそれを迎えた。
「いや?今日はは見ていないが」
「ったく何処行ったんだよ、ライフルのメンテ頼んでたのに」
ipodのイヤホンから漏れるボサノバはそのままに、軍曹は腕を組んで口をへの字に曲げて足を鳴らす。
「もしに会ったら、エプスが探していたと伝えておこう」
頼んだぞという言葉を残して3台に背を向ける軍人の背中を見送り、ライトグリーンのレスキュー車がライトを瞬かせる。
「よく言うなオプティマス。『を見ていない』などと」
「んぅ…おぷ、ティマ……」
ラチェットの声に反応した様に色鮮やかなトラクターの背後…エアカップリングとカプラの間の鉄板の上で、すやすやと安らかな寝息を立てているが身を捩った。
「諸君とて、我らの大事な友人の安眠を妨害したくはあるまい」
司令官にしてはややおどけた様な口調で、背中の睡眠者に配慮した音量で囁かれる内容に、両脇の2台が各々の反応を返す。
眠るが他者の目に触れて睡眠を妨げられぬ様にと、オプティマスの両脇を固める二人とてその思いは一緒なのだ。
そんな彼らに守られながら眠るの寝顔は安らかそのもの。
女で有れば誰でも一度は夢見るであろう豪華な天蓋も、シルクのシーツも、豪奢な彫刻も何も無い。
ただあるのは固くて冷たくてディーゼル臭いトラクターの鉄板だけ。
だがにとって其処は、どんな極上のベッドよりも素敵な場所だった。
「…っくち!」
小さなくしゃみを漏らした途端、それまで静かだった黒のトップキックC4500がトランスフォームを始める。
「だが姫サマに風邪を召してもらっちゃあ堪らんから、起きて貰うとするか」
本来の姿に戻ったアイアンハイドは彼にとってアリも潰さない様な力で、しかし人間にとっては十分過ぎる程の力で小さな体を揺すった。
「んぁ…?何、もう休憩終わり…?」
ゆっくりと覚醒するは、寝ぼけ眼のまま頭上で組んだ腕をグーっと伸ばしてもう一度欠伸をする。
無防備すぎるの様子を見つめる1体と2台は、それぞれいけない感情を抑えるのに一苦労している。
「んー…。…ん?……んんんん?!」
しょぼしょぼする目を擦りながらオプティマスの車内に有る時計を見て、は素っ頓狂な声を上げる。
「やっば!!エプス軍曹の銃のメンテ頼まれてたんだった!!!!」
バネで弾かれた様にオプティマスの背から飛び降り、リペア室に向かおうとした足を止めて駆け戻ってきた。
「いっつも背中貸してくれて有り難うオプティマスv」
お礼と共に、グリルの先にあるボッツマークへ背伸びしての軽いキス。
「アイアンハイドもラチェットも、ありがとv」
ラチェットはPIAAのライトへ、アイアンハイドは膝部へキスを貰って思わずたたらを踏む。
「じゃーねー!また明日ー!!」
にっこりと笑い、手を振りながら元気良く駆けていくの後姿を見送るオートボッツはようやく直立歩行形態に戻り、誰からとも無くラボへ足を向け始める。
それぞれのメインメモリーとブレインサーキットの中で、先ほどの顔をエンドレスでリピートされている事はは知らない。
オマケ
「…おいオプティマス。今度を背中で寝かせる役、俺に代われ」
「アイアンハイド、それはに頼むしかあるまい。彼女は何時もメディカルチェックの最中に寝てしまうのだからな」
「は我々のコンディションを思って自らの睡眠時間を削っているからな。このままでは体がもたんだろう。今度人間用のスイミンヤクという物を作ってみるか」
「「邪な考えで作るんだったら許さんぞラチェット」」
「…私はそんなに信用が無いのか?」