「くっそ!!!」
今できる最大の悪態を突きながら、は組み手用の器具に渾身の蹴りを叩き込んだ
―憤りは時に…―
は朝からげんなりして、苛々し続けていた。
何故なら、朝からツインズが張りついてきてギャーギャーとサラウンドで喚き立てて五月蝿くする。
アーシー達はまわりでアクセル噴かしながらジャックナイフターンを見せ付ける。
ラチェットは見るからに怪しげな、ドライアイスの様な比重の重い煙を吐き出す紫色の薬を矢鱈と勧めてくる。
アイアンハイドはご自慢の銃砲をこれでもかと自慢げに見せてくる。(ついでに「運試しするか?」と砲身突き付けられた。ふざけんな。)
揃いも揃って一体何のつもりだ!鬱陶しいにも程がある!今日は周りの全てが兎に角疎ましかった。
格好良くバンブルビー達のとこを飛び出し士官学校に入ったが、其処は男尊女卑が蔓延る狭い世界。
ようやくの思いで士官学校を卒業し、軍属になっても尚、性差だけで嘲笑われる日々が続いた。
全く予想してなかったと言えば嘘ではあるが、この内部事情の酷さは余りにどうしようもない。
自分とて得意分野―銃火器の扱い―だけしていれば良い訳でないのは良く分かっている。
わかっているが女というだけで軽んじられるのももう限界だった。
「っくしょう!!!」
もう一度叫んで今度こそ組み手器具を蹴り倒し、それに荒く腰を落として髪を掻き毟った。
キュッとゴム製品が擦れる様な音がしたので、視線を上げればそこには両手にブレードを携えた、新顔のサイドスワイプ。
黙したままでじっとこちらを見ている。
普段なら何でもないが、意識が昂ぶっている今はその視線すら苛立たしい。
「何見てるのよ、落ちこぼれを笑いにきたの?」
「それは間違いだ。お前が劣等ではない事は、司令官や俺達は良く知ってる。まわりの不当な嘲笑に苛立っているだけだろう」
「実力があればその不当な嘲笑だって黙らせられるのよ。それが出来ない私が劣等生じゃない?オートボットは競争ってもんがなくて平和なのねぇ」
苛立ちのあまりの言葉は刺々しくサイドスワイプに向けられるが、当の新顔オートボットは小さく首を巡らせただけだった。
「我々オートボットは元々民間用オートロボットだ。純軍事用のディセプティコンと比較すれば、確かに競争概念は薄いかもしれない」
皮肉を言ったつもりが、全く普通の返答を返されてしまいはちっと舌打ちする。
その舌打ちが届いているかは分からないが、サイドスワイプは腕の刀剣を格納しその青い瞳でを見つめた。
「我々は生まれた瞬間からスペックが定められ変わる事はない。他者のパーツを使えばそれを変える事も可能だがあくまで一時的な物だ」
突然何を言い始めるのだろうかと、は思わずサイドスワイプを見上げる。結果視線がぶつかり、慌てて逸らす。
「それに引き換え人間のポテンシャルは未知数だ。開発すればする程自身のスペックを引き上げられる。我々は人間が羨ましい。可能性と言う言葉は人間が使うに最も相応しいと思っている」
「…五月蝿い!わかった風な事いわないでよ!人間はオートボットと違って生きてる時間は短いの!その中で常に結果を出す事を強いられるのよ!」
この先は言ってはいけない言葉だと分かっていても、激昂の勢いと言葉は、止められなかった
「のうのうと無駄に長い時間生きてられるあんたらに何がわかるのよ!」
迸った言葉は空に砕けて散り、気まずい沈黙が場を支配する。
「…ごめん、関係の無いアンタに当たるなんて最低だわ…。風に当たってくる……」
居たたまれなくなり、逃げるように出入口に向かって歩き去ろうとする背中に、タイヤが擦れる音が追い縋った。
「…求めた物を得られるのは、得ようと足掻いた者だけだ。直ぐに結果が得られないと言って己を恥じるな。」
サイドスワイプの声はに届いただろうか。
一瞬立ち止まった背中が、何も言わず見えなくなったのを見届けて、若いオートボットは同族の居るラボへと戻る。
「ど、どうだったサイドスワイプ…!」
彼の帰還を見るや、一斉に仲間が駆け寄り口々に何かの結果を聞きだそうとするが、それに反して当のサイドスワイプは表情が浮かない。
「だめだ…怒らせただけだった。だから最初から司令官が行けば良いといったじゃないですか!あああああに嫌われちまった…」
先ほどまでの知的っぽさを装った喋り方は何処へやら。
素の喋り方に戻っている挙句、文字通り床をへこますほどに膝から崩れ落ちたサイドスワイプを、ツインズが役立たずー!と囃し立てる。
それを背後にしながら、オプティマスは大切な戦友をどうしたら元気づけられるかと頭を悩ませた。
彼らは以前が実地訓練に来た時から彼女の悩みを見抜き、どうしてやれるだろうかと皆で考えを出しあっていたのだ。
結局結果は芳しく無かったようだが、が手の届く場所にいる内は彼女を守ってやりたい。またあの時の様に笑ってほしいと願うオプティマスは部下を集め、胸を張って言う。
「私に良い考えがある!」
「…知らない所で心配かけてたのね…。駄目だなぁ、オプティマスにあんな顔させちゃった」
ラボの入り口に隠れて中の会話を聞いていた。
脳裏には配属されたばかりの頃、懐かしい3体と見慣れない7体と会う事が出来た…と言うか、こっそり会いに来てくれた日の記憶が蘇る。
言葉を交わした時間は短かったが、同じ戦いの記憶を共有する者同士、感慨深いとでも言うのだろうか。
彼らと話している間は士官学校の事も忘れられたし、何より不当な差別をしない彼らの存在は、確かにを癒していた。
離れていた期間はあっても、彼等は私を戦友と呼び、想ってくれていた。
負けてられない。彼らに心配をさせるのは本意ではない。何より、もう一度笑って彼らに会いたい。
大きく息を吸い一歩を踏み出す。
新たな決意をした笑顔が、そこにあった。
オマケ
「もう夢も希望もねえ…に嫌われた…」
「オプティマス!スケート野郎がいい加減うぜぇよどうにかしてくれ!!」
「そもそもはお前達二人が追い討ちをかけるからだろう。その場で切り捨てられなかっただけ良しとしろ」
「はぁぁぁ………。違うんだ、俺はただお前を元気付けてやりたかっただけなんだぁ…!俺はお前が笑顔になってくれれば、それで良かったのに……」
「ぎゃーうぜぇ!!超うぜえええええ!!!」
「ちょっとサイドスワイプ。がアンタにってワックス預かってきたわよー」
「わが生涯に一片の悔いなーし!!」
「何処まで行ってもうぜえなこいつ!だれか音声回路切っちまえ!!!」
「…全員がから贈り物を貰っているんだが、サイドスワイプには黙っていた方が良いと思うのだがアイアンハイド」
「ああそうしろ、それが俺達の為でもある」
「まあぶっちゃけ、貰った物は皆同じなんだけどねー」