「太陽の色・ひまわりの花」


は腕に数本のひまわりの花を抱えて、忙しなく足を動かしていた。


早く彼にこのひまわりを渡したい―!


心と頭の中はその言葉のみに埋め尽くされ、目の前に人参を垂らされた馬の様に一心サムの家目掛け駆け続ける。
そしてようやく辿り着いたウィトウィキー家。
荒い息をつくまま視線を巡らせれば、車庫から半分以上車体のはみ出したカマロのボンネットはひまわりで埋まっていた。
飾り立てられたカマロを見た瞬間、全力で脱力感が体を駆け巡る。いや実際脱力し切って居たんだと思う。
考えてみればサムの父親は園芸趣味をもってて、この時期の花であるひまわりを育てていない筈がなかった。
テラスでミカエラと談笑していたサムが、呆然と立ち尽くしていたに気が付いて軽く手を上げた。

「どうしたの。何か用?」
「あっいや何でもないわ!たまたま通りかかっただけだから!ごめん!」

咄嗟にひまわりを隠して踵を返した瞬間、服の裾が思いっきり後ろに引っぱられ、続いて足が空に浮いた。
原因が摘み上げられているからだと振り返らずとも分かる。摘み上げているのが誰なのかも。

「やだ・・・ちょっとバンブルビー離してよ・・・!!」

黄色い巨人から逃れようと片手と両脚をばたつかせていると、不意に大きな指が抱えていた花の一本を抜き去る。

『どうしたのこの花?』

バンブルビーにラジオ音声で問われた途端、今度こそ力無くした四肢は垂れ赤味のさした頬に雫が伝った。
泣きながらバンブルビーにひまわりを黙って差し出す。



一目見た時から思っていた。彼はひまわりだ。そのボディカラーは勿論。
すらりと太陽に常に花弁を向け伸びるその姿が、尊敬するオプティマスを慕い追い付こうと背伸びしているような、目標に向かいひたすら頑張る彼の姿に見えるから。
この花を彼に贈りたかったが、その役目は彼の親友の物だった。

当然の話だ。
常にバンブルビーが寄り添い守護している対象はサムなのだから。



敗北感と浮かれていた自分の情けなさに涙が止まらずしゃくり上げていると、視界を黄色い何かに塞がれた。
流石に驚いて顔を上げると、バンブルビーの大きな指に小さなガーベラの花が揺れている。
バンブルビーの後ろでサムが「庭の花がー!」と叫んでいるが、正直どうでも良い。



『泣かないで そこにはほら 
 掛け替えの無い大切な人 
 一つ一つ 流した涙
 その理由を忘れないで』




そっと曲を流し始めたバンブルビーのヘッドパーツにはのひまわりが一輪飾られていた。
バンブルビーは差し出しているガーベラの花をの髪の毛の、自分と同じ場所に飾ってやる。



『泣かないで愛しい人よ 悩める喜び感じよう
 気が付けば悩んだ倍 あなたを大切に思う
 ほら 元通り以上だよ 気が付けばもう僕の腕の中』



突然体に衝撃が伝わって視界が動き、文字通り「気が付けばもうバンブルビーの腕の中」だった。


『ほら あなたにとって大事な人はすぐ傍にいるの ただあなただけに届いてほしい 響け恋の歌』


『大好きな人からの贈り物、私は何をお返しできるかしら』

カーラジオから幼い少女の声で尋ねられ、は泣き笑いの表情のままバンブルビーの口元―発声器官―を指し示す。
すっかりキスをエネルギー補給行為と信じ込んでいるバンブルビーはの唇に自身の鋼の口唇を重ねた。
静かに唇を離し、やや照れたように首をすくめる彼がたまらなく愛しい。

「ありがとうバンブルビー・・・大好き」

「…オイラも………が……大好きだよ…」

ややノイズが混じってはいたが、バンブルビーが音源を用いずに自分の声で私の名前を呼び、好きだと言ってくれた。
たまらなくて、うれしくて、愛しくて、は溢れる涙を頬に伝うに任せてバンブルビーの首に腕を回す。
軒先から見ていたサムとミカエラはバンブルビーの告白に肩をすくめ微笑んで、庭に二人を残して家の中へと姿を消した。

庭先に残された一人と一体はもう一度、今度は長い口付けを交わしていた。