サムはこっそりと車庫へ足を向けた。車に擬態しそこで寝泊りしている親友の様子を見る為だ。
だが車庫を覗いてみても暗闇でも目に痛い黄色いカマロの姿が無い。
またオートボットの仕事と称して、スピード違反チケットの獲得に精を出しているのだろうかと僅かな怒りを感じ足を庭外へ向ける。
予想に反して、バンブルビーは家からさして離れていない丘の上で、珍しくロボ形態で座り込んでいた。
センサーが熱源の接近を察知し、青く光るオプティックがサムの方へ向けられる。
「空みてたの?もしかしてホームシック?」
サムの揶揄にバンブルビーは首を横に振り、体内から静かな曲を流し始めた。
『夜空を見上げ一人 ほうき星を見たの
あなたの事を思うと 胸が痛くなるの
今すぐ会いたいよ だけど空は飛べないから…』
聞いた事も無い女性歌手の声は切々と逢瀬を願う詩を紡いでいく。
「誰かに・・・会いたいの?オプティマスとか?」
曲を流したままでバンブルビーは首を横に振る。
『もし私が ほうき星になれたならば 空駆け抜け 飛んでいく
きっと届く この一瞬の光で あなたのイマ照らし 空を巡ろう
きっと傍に居てあげる どんな時も』
「じゃあ・・・きみの星にいる仲間や友達?」
また首を振る。
「えー?じゃあもしかして・・・?」
の名が出た途端曲は響くのを止め、ためらいがちにバンブルビーの頭部がコクンと縦に揺れた。
途端にサムの口から笑い声が飛び出す。
笑われたバンブルビーは拳を振り上げ、電子ノイズ混じりの怒り声をあげながらサムを叩こうとする。
「はは!わはっごめ!ごめんってビー!やめろって!」
相手を静止はするが笑い止る気の無いサムの衣服を掠め、地面に何個か拳型の穴が出来たので流石に笑いを収めた。
「そんなにに会いたいんだ。好きになったんだ」
『あなたに 逢いたくて 逢いたくて あなたに 逢いたくて 逢いたくて
眠れない夜 夢で逢えたら考えすぎて 眠れない夜
夢で逢えたら 何処へ行こうか? 貴方がいれば どこでもいいよ』
「彼女の家、知ってるよ」
途端に顔を跳ね上げてサムを見つめる感光センサーはキョロキョロと、背中のドアはパタパタと落ち着き無い。
バンブルビーの見た事もない反応に悪戯心が起きるが、これ以上おちょくったら幾らサムとて無事に済みそうに無い事はわかる。
「休み時間偶然会って教えてもらったんだ。会いに行こうか、に」
ただ一人の相手に会いたいと思うだけで、こんなにも突き動かされる衝動を感じ、じっとしていられない。
人間はこんなにも凶暴で乱暴で、切なくて優しい感情をその体に持っているのか。
ああきっとこれが人間の言う「恋」と言う物なんだろう。
なんて素晴らしい感情なんだろう。
気を抜けば自分が人間になってしまったのではないかと錯覚してしまう程の感情に突き動かされ、ビーグルモードになるのももどかしい。
サムの下半身が車外にぶらさがったままでタイヤを力の限り空転させ夜の道へ飛び出していった。