「こう4日も空けずに花贈ってたら、好い加減オーナーさんの部屋が花で溢れ返っちゃいますよ?あとお金も馬鹿になりませんよ?」
お陰でうちは儲けさせて貰ってますけど。とブーケを作りながらは嫌味で無い笑顔をリュウケンに向ける
その笑顔に応える様に、リュウケンも微笑んだ。尤も、彼を良く知る者でなければ判らない程の、微細な変化だったのだが
「オーナーはさんの花、とても喜んでる。お金は僕のお給料から出してるから平気だよ」
「贈られた人が喜んでくれるのがうちの子達…あー、うちの花達が一番喜びます。まあ何にせよ、サイフ的な無理は止めて下さいね?」
大事な上得意様なんですから。と冗談めかして笑うの表情を、リュウケンは穏やかな目で見つめた
―コルテオイデス―
事の始まりは、ファンの女の子から贈られたとても小さなブーケ
そこらの花屋の花には無い優しさを感じる。と、甚くお気に召していたルリーの笑顔は、それが枯れると共に消えてしまった
愛しきルリーの笑顔の為!と執念で店を探し出して通い詰める内、すっかり歓待を受ける程の常連と化していた
「これも正解!リュウケンさん凄いですねー、もう私より花言葉に精通してるんじゃないですか?」
「そんな事無い。僕が知ってるのはまだほんの少しだけだよ」
持っていた黄色い花が揺れる鉢植えをリュウケンに手渡しながら、は「次はもっと難しいの出しますからねー」と屈託無く笑う
「でも私結構マイナーな花とか出すのに、答えられなかった事無いじゃないですか。もしかして花言葉辞書でもインストール済みです?」
「してないよ。出来るけどそれは覚えた事にならないから、僕、図鑑を見て一つづつ覚えてるよ」
「それはまた失礼しました。でもそう言う所、リュウケンさんらしいですね」
朴訥で穏やかで、何より驕る事を知らない努力家のリュウケンを、は「常連客」と言う枠以上にとても好ましく思っていた
しかし彼の中にはルリーと言う不可侵の聖域が、存在意義が、行動原理が存在している
「店員」と「客」の関係から変わる事など、望むべくも無い
だがはそれでも良かった。何処か心地良ささえ感じるこの絶望感も、そう悪く無い物だと思うからだ
「でも本当に、リュウケンさんが私を追い越しちゃう日は近そうだなぁ。そうなったら、私がまだ知らない花言葉、教えてくれますか?」
「うん。でもさんが知ってて僕の知らない花言葉があったら、教えて欲しい」
「はい、それは勿r「!今日という今日は俺の物になって貰うぜぇ!!」
突然店先から怒号を響き渡らせたのは、厳しいヘッドパーツと向こう傷が特徴のゴールド3兄弟が次男
「あ、ゴールドフット」
「うわ来た…」
ズカズカと歩み寄るフットが、傍らのリュウケンなど眼に入っていないと言う様に、の顔の横に両手を突く
「なあ。こんな裏路地の儲からねぇ花屋なんぞ辞めちまって俺の所に来いよ。俺の稼ぎなら一生困らねぇって事位判ってんだろ?」
フットから投げかけられた言葉を聴いた途端、の表情が険しい物へと変わった
は親を早くに亡くし、店と温室を継いで、自家栽培の花を売って生計を立てている
店の評判も上々でリュウケンの様な根強いリピーターも多いが、何分良心的過ぎるお値段経営は確かに悩み所ではあった
経営者として店を守る為の値上げという選択肢を迫られているのだが、代々続く価格を変える訳には行かないと生活を切り詰める事で何とか対応している
そんな台所事情を知っているフットは、ニヤニヤと勝ち誇った笑いを顔に貼り付け、を見下ろしている
「どうしても辞めたくねぇってんなら、店丸ごと買い取ってやっても良いんだぜ?そうすりゃあゴールドフット様お抱えの店って事でハクが付くし、潰れる心配もねえ。良い事尽くめだろ」
「寝言は充電中に仰って下さい。それとも過充電で思考回路がイカレましたか、この煮しめ色野郎めが」
「はっはっは!そういう気の強ぇ所が良いんだよお前はよぉ!」
静かだがハッキリとした拒絶を示す啖呵に一際愉快そうな笑い声をあげ、リーガーの大きな手が人間の細い腕を掴み、ぐいと引っぱった
軽い体はあっさりと引き寄せられてボディにぶつかる様に倒れ込み、囁くと同時に無骨な鋼鉄の指に上向かされる
「兄貴もマスクもお前の事気に入ってんだ。悪い様にはしねぇ、好い加減一緒に来いよ」
弱みを握られている悔しさからなのか、怒りとは別の色さえ滲ませた目ではフットを睨みつけた
「そんな顔で見詰めてくれんなよ、そそり過ぎて言う事聞かせたくなっちまうだろ?」
くっくと喉の奥の発声器を震わせ、捕らえたままのの顔に己の唇を近づけて行き、接触まであと数センチとなった所で
「プルヌスの花言葉をご存知ですか?」
「はぁ?」 「え?」
の口から突然飛び出した問い掛けに、フットは怪訝そうな顔を、リュウケンはギョッとした表情を見せた
「ゴールドフット様に相応しい花言葉なのですが…ご存じないのですか?」
「俺にピッタリだあ?そりゃお前イカシてるとか最強が正解に決まってんじゃねーか」
「あ、えっと…」
「残念ながら掠りもしておりません。不正解者は即刻退場と言うのが我が店のルールで御座います。お引取り下さいませ。」
退場と言う言葉に僅かな反応を見せ、拘束の緩んだフットの手からもぎ取る様に渾身の力で腕を引き抜く
相手にしてみれば相当加減したのだろうが、握り込まれたお陰で赤く腫れた箇所を摩り、即刻出て行けと睨み付けてやる
「何だよ、高々人間がつけた勝手な解釈だろ?そんなもん俺達リーガーにゃあ」
「私は花言葉も知らない様な方とお付き合いする気はありません」
「私をモノにしたかったら、この私を凌ぐ程花言葉を覚えてきやがって下さいな」
「そう言えば…」
フットが退散間際に蹴り飛ばして行ってくれたバケツと水の処理を手伝いながら、しょんぼりとリュウケンは呟いた
「花言葉間違えたら退場って、僕初めて知った…。間違えた事有ったけど、お店から出てない…」
何時もピンと立っている髪の毛をすっかり倒し、ホウキ握り締めて不安一杯の表情のリュウケンは、縋る様にを見付めている
「え?!あ、やだなリュウケンさん、あんなの本気にしないで下さいよっ!アイツ追い返す為の嘘なんですからぁ!!」
よもやリュウケンにまで本気にされると思わなかったは、慌てて左右に力一杯手を振って声を張った
慌てた原因に、捨てられた子犬の様な眼差しのリュウケンを不覚にも可愛いと思ってしまったのも含まれるが、それは到底言える筈も無い
「…じゃあ花言葉知らない相手とは付き合わないって言うのも嘘?」
「え?いや、それは本気ですけど?私仮にも花屋なんですし、花好きでも無い人とは付き合いたくないですよ?」
「……良かった」
何が良かったんだとがどれだけ聞いてもリュウケンは答えない
ただその日からリュウケンが一層花言葉勉強に熱心になった事を、は知らない