「背中合わせ隣り合わせ」


空屋敷での生活が板についてきた頃、かがりに倣い和服を着ると言い出し、は実家から浴衣を持ち出してきた。

振袖も自前のが有るらしいのだが、色が気に入らない(桃色に桜の柄らしい)上に動き難くて困るらしい。

そして持ってきた浴衣は紺藍地に薄い藤の柄をあしらった物で、それなりに似合っている。

一鬼や神野も遠まわしだが似合うと褒めた位で、威吹は内心そんなの存在を内心誇らしく思っていた。



しかし西の妖の長、神野悪太郎の拠点である空屋敷は九州高千穂峰の上空に浮かぶ巨大要塞。

高所に鎮座する空屋敷の中を吹き抜ける寒気は、人間にとって酷く堪える。

人間が夏に着る浴衣では空屋敷内の気温に耐えられるはずも無く、は部屋の隅に縮こまって震えていた。





は威吹を見つけるなり足音も高く小走りに走りより指を突きつける。

「威吹その羽貸しなさいー!」

「断る」

目的を告げない少女の要求をぴしゃりと一言で切り捨てる威吹。

「鬼ー!人でなしー!人外ー!」

「私は妖だ」

「うぁー!事実故に余計ムカつくなりー!!」

「そもそも私の羽をどうするつもりだ。毟りでもする気か」

威吹の言葉に、足を踏み鳴らさんばかりに憤慨していたが何故かぐっと詰まった。

何か言葉を紡ぎたそうにするが、それが出来ず威吹の目の前で座り込む。


「毟りなんてしないよ…只・・・さぁ」

「ただ、何だ」

「威吹の羽…暖かいから」

「・・・・・・・・」



威吹は思い出していた。

が自分の翼に触れた時の表情を。

つい見惚れてしまった、あの可憐な表情を。



威吹はまだこもごもと言葉を紡ごうとするの背後に、背中合わせに黙って座り直す。

鴉天狗の姿を追って視線を巡らせた少女の視界を遮る様に、白い鳥の羽が眼前に陣取った。

脆弱な人間を寒さから護る為に伸ばされた羽は、柔らかくの頬を撫でて、人の腕がする様に少女の体を包む。

布越しに触れ合う背中同士は暖かい。

それ以上に暖かい羽に包まれて、大切に護られている様な感覚に少女の口元は緩やかな弧を描く。



「・・・やっぱり暖かい」

「・・・・・・・・・・今日だけだぞ」


青い羽毛に包まれた想い妖の頬がほんの少しだけ赤いのを、チラリと上を見た少女の目は確かに捉えていた。





背中合わせ隣り合わせ



寒い日はいいよね 暖かさがよく分かるから


寒い日はいいよね とても近くに貴方を感じられるから


寒い日はいいよね 貴方に寄り添っていても怒られないから




fin