「ぎゃー!ブル頼むからもっと近くに居てくれよー!!」
「近くも何もマウントポジションで無理言うんじゃねえタコ!!」
―恐れる物はなにもない―
社の外は生憎の荒れ模様
体躯の割に雷が嫌いなロンは、轟音を立て続ける雷鳴にすっかり恐れをなして最早圧し掛かりと言った風情で、必死にブルにしがみ付いていた
「ったく何でそんなでかい図体で雷が恐いとか情けない事言えるんだお前は?!」
「恐いもんは恐いんだ仕方ないだろ〜〜!そう言うブルには恐いもんって無いのかよ〜〜!?」
「俺に?恐いものだぁ?」
そういえば考えた事もないから良い機会だと考えてみる
負傷したり死ぬ事?残念ながらそんな事を恐れてちゃあ猪猟は出来ない
なら仲間や友が傷を負う事?そりゃ恐いとはベクトルの違う話だ
なら何だ?俺が恐れる事と言えば?
そう思った瞬間、ノイズ混じりの映像が脳内を高速で駆け巡り始める
森の中で猪を追いたてる声
前肢を食い付かれた新人
助けようとして二の舞になった俺
崖へ投げ出された体
そして――
「・・・・・・・る・・・・・」
「え、何?どうし「捨てられる事・・・」
ロンは息を飲む
ブルの辛い記憶を掘り起こしてしまった
ーそんなつもり無かったのにー!
迂闊な己を悔やみながら、ロンは小刻みに震えるブルの体を必死にきつく抱き締める
「ブルごめん!思い出したくない事思い出させた!ほんとにごめん!!」
過去に囚われロンの声も聞こえていないブルの視線は虚空を彷徨ったままだ
「でもな!聞いてくれよブル!」
「俺は、何があっても絶対ブルを見捨てたりしないから!絶対に!!ずっと一緒だから!!!」
だから俺を見てくれと必死にブルの目を覗き込み、想起の渦から引き上げようとする
焦点の合わなかった目がロンの目とかち合い、乱れた息使いが次第に落ち着きを取り戻す
「・・・バーカ、当たり前だろ」
「ブル…ずっと一緒にいるからね」
「・・・で?お前はいつまでしがみ付いてる気だ?」
「えっと・・・・・・雷がどっか行くまで・・・」
ダメ?と舌を出して誤魔化そうとするロンを無理矢理蹴り飛ばすと、しつこく縋ろうとするのを牙を剥いて黙らせ背を向けて寝転がる
黙っていても弛む口元を必死に引き結ぶのが今の最大の大仕事だった
『こいつと一緒にいれば、俺に恐れる物は何も無えな』
END