デストロン移動要塞サンダーアローの廊下を、天突く角が雄々しい青いトランスフォーマーが歩いていた
「おうドリルホーン。今からジャルガーの部屋で飲むんだが、一緒に行かねーか?」
「すまんがレオザックに呼び出されているんだ」
青き古参の答えを聞いた途端、呼び止めた側のキルバイソンは心底気だるそうな声を出す
「おーおー大変だなぁお前も。早めに終わったら来いよ、ガイホークも呼んで待ってっからなー」
既に一杯やっているのか、少々覚束無い足取りで反対方向へ歩いていく同僚に手を振って見送った後、ドリルホーンは再び歩き出した
―甘ったれた獅子のしつけ方―
レオザックは指揮官の任に就いてはいる物の、ブレストフォースの中でも特に年若く、時折浅慮が目立つ
そして幼い頃より面倒を見てくれたドリルホーンを信頼するあまりか、かなりムチャ振りや八つ当たりを日常的にしてくる
今回だってそうだろう、俺を自室に呼び出すなどどうせろくな用向きではない
先刻デスザラス大帝にこっ酷く絞られた愚痴を延々と聞かされるのが関の山か
そうは思った所で一応は上官だ、部下である自分は呼び出しが有ったとなればそれに応じなければならない
今度はどんな愚痴を聞かされるのやらと、内心辟易しながらドリルホーンは扉の前に立つ
「ドリルホーン参りました」
「入れ」
レオザックの声に応じて扉が開く
部屋のやや奥に設えられた、デスザラスの物を模した椅子にふんぞり返っているレオザックが目に入った
次期大帝の座を狙うのは大いに結構だが、そんな物を堂々と自室に置いといて現大帝のゴキゲンを損ねない物か。等と要らぬ心配をしてしまう
そんなブレインサーキットを過ぎる思考を端に追いやり、上官の前まで歩を進めて傅く
「お呼びでしょうか」
「ドリルホーン、俺を抱け」
「…………………」
叱られた子供が拗ねて言う内容にしてはタチが悪い
予想のナナメ上を行った要求に答える気力も起きず、ただ黙ってその顔をガン見してやった
「何だ?聞こえなかったのかドリルホーン。俺は抱けと言ったんだぞ?」
「…………………………………」
返答をする気が起きない
それ以前にそれが人に物を頼む時の態度かと、現実逃避じみた考えがサーキットを埋め尽くす
「どうした…何故黙っている!」
だんまりを決め込む部下に苛立ち募る怒声を上げながら、レオザックが肘置きを砕く勢いで拳を叩きつける
「お前は俺がリーダーになった時に忠誠を誓っただろう!お前は俺の命令に従えば良いんだ!今まで通り!!!」
レオザックが吼えたその瞬間、ドリルホーンが動いた
ブレストフォース一の強力を誇る腕がレオザックの喉元を捉え、軽々とその体を持ち上げる
「ドリ…!き、さま…何を…!!」
「確かにお前が指揮官になった時忠誠を誓った。だがな」
宙に浮いた足をばたつかせながら睨みつけるレオザックをベッドに放り投げ、喉を押さえて咳き込む指揮官に跨った
「俺にとって忠誠とは、主にとって何が一番最良最善であるかを常に考え、行動する事だ」
「忠誠と盲従は違うぞ」
古参の放つ剣呑な声に、再び喉に掛けられた手に、若き指揮官の喉奥から怯んだ様な小さな悲鳴が漏れる
空いた手でレオザックの顎を上向かせ、そのまま指先は胸のブレスターへ下りて行くと小さく息を呑む音が聞こえた
「今のお前にとって最良は房事ではない。休息だ」
そう言ってレオザックが腕を掴んで抵抗する暇も有らば、ブレスターの下にあるシャットダウンボタンを押して黙らせる
崩れ落ちる機体を抱え上げ、部屋を出ると医務エリアの回復ポットにその緑色の機体を横たえた
光を灯していないオプティックセンサーが、装甲が、ポットの淡い光を受けて薄黄色に輝いている
「全く、愚痴を聞くだけなら黙って付き合ってやったものを」
不快ではない笑みを浮かべた唇が、何処か呆れを含んだ声で呟く
―どうしてもっと素直に甘えてこないものか―
苦笑するままに頬に触れた指は唇をなぞり、自身のそれと束の間重ね合わせる
この男の意識が有る時にしよう物ならどんな罵詈雑言が飛んでくるか分からぬこの行為
何時からかしなくなったそれは、レオザックが幼い頃には確かに有った二人だけの秘密
もっと真摯な言葉で求められていたら、俺はレオザックを抱いていただろうか
考えても栓無い事だと緩く首を振り、ポットに背を向けた
その日レオザックがどんな夢を見たか、誰も知らない
END